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値切らない技術

Thought

世の中では、「値切る技術」と「値切られたときに対抗する技術」ばかりが語られ、「値切らない技術」について語られることは少ない。しかし、私は会社を4年ほど経営してきて、「値切らない技術」には計り知れない力があると感じるようになった。

会社経営をしていると、エグいぐらい値下げ交渉をしてくるお客さま、定価で「はい、それでいきましょう」というお客さま、いろいろお会いする。

私は先日、東京出張でホテルに泊まった。東京出張のときは毎回同じホテルに泊まっている。これまではだいたい、楽天トラベルやANAの旅作などでホテルを予約していたのだが、「結局いつも同じホテルだな」と思い、ホテルの会員になって公式サイトから予約した。そうすると部屋に水のボトルが置いてあり、朝食時には朝食券を渡すだけで「いつもご利用ありがとうございます、お席ご案内します」と「予約席」と書いてある席まで案内してくれた(おそらく朝食券の色が異なっていてそれで見分けているのだろう)。これは楽天トラベルやANA経由で予約していると絶対に見れない景色だったように思う。

「値切ろうと(安く買おうと)せず、優良顧客になることでしか得られないものがある」とは前々から思っていたが、その思いを裏付けてくれたエピソードとなった。

長期的に良い関係を結びたいなら、値切らず買え

お客さまは神様というが、すべてのお客さまが等しく神様ということはありえない。値切ったりせず、定価で買ってくれて、長く使ってくれる優良顧客を大切にするのは当たり前だ。

「前発注したのが調子悪くなって、でも、いまどうしても予算がつかなくて……」という「困った」こともあるだろう。こういったとき、「困ったときになんとかしてあげたい!」という気持ちになるのは、値切ったお客さまではない。ただでさえエグい値切り交渉を経て安く提供してしまったお客さまのためにさらなる過剰サービスをしてあげようという気には普通はならない。会社は慈善団体ではない。どうしても「いや、それサービスに含まれてませんから別料金ですね。契約書にも書いてません。」となってしまう。

しかし、優良顧客であれば、「それ普段は別料金なんですが、長くご利用いただいてますし、サービスしておきます!」と言いたい気持ちが芽生える。長期的に良い関係を結びたいのであれば、「値切らず買う」ということはそれを上回るメリットがあるはずだ。

1回限りの発注でも、値切らず買え

長期的に良い関係を結ぶ必要がなく、1回限りの発注だとしよう。「1回払ったら縁を切るぐらいのつもりでエグいぐらい値切ろう」と思うのも良い戦略ではない。

私の友人の例を紹介しよう。彼は外壁塗装の仕事をしており、「代理店が安い価格で受注してしまうと、その分安いペンキを使わざるを得ない」と言っていた。たとえば、ペンキ代の原価が50円だとして、それに50円の利益を積んで100円と設定していたとしよう。100円から10%値引きで代理店が販売すれば顧客が支払うのは10円引きである。もしここで原価を50円のまま変えなければ、利益から10円削るしかなくなる。そうなってくると、仕事を受けた側は50円の利益から10円引き、つまりは20%の利益減ということになる。販売価格10%の値引きだったはずが、利益20%のダメージになる。

しかも、値引きする側の人間は(故意かどうかはさておき)往々にして悩むような素振りで値引き交渉に時間をかける。つまりその対応の時間にも人件費がかかっており、交渉に応じている間にもじわじわ利益は圧迫されている。こうなってくると、良心の呵責を感じながらも値切った金額分以上の原価を減らさざるを得なくなる。値切るとその場では安くなってお金を払った方は満足なのかもしれないが、価格に現れなく目に見えないところで品質を下げて帳尻を合わせることになる。それによって発生する問題(たとえば、すぐまた塗装が必要になるなど)はもちろんお金を払った側に返ってくる。

値切れそうだと思ったとしても、あえて値切らないほうがメリットになるのは至極当然だ。値切るというのことはまさに自殺行為であると思っている。

良い関係が築ける値切り方とは?

とはいえ、それでも値切りたいことはある。そこで、値切るときに考えておかなければならない指針がある。それは、

値切ることがお互いのためになる

ように根切り戦略を設計すること。私はよく発注するときは、「いろいろ悩んでいて、他社と相見積もりを取ろうと思っているんですが、予算はこれぐらいで、この価格にしていただけるのなら今ハンコ押します」のように言う。まだ発注するかどうか分からない段階で、相手の抱える「失注リスク」を取り除くことでその分の値下げなら通りやすいと感じている。「ウジウジ悩んでセールスマンの時間を消耗させた結果発注しない」という、セールスマンからすると最悪のシナリオは回避できる。

よくあるのが、「今回うまくいったら見込み顧客をたくさん紹介するから安くして」というパターンだ。これも一見お互いの利害によくマッチしているのだが、悪手と言わざるを得ない。紹介してくれるかどうかわからない不確定な未来の条件と引き換えに、いまこの瞬間の値引きには原則として応じられない。「紹介してくれたらそのときに紹介料払うから今は安くできねえわ」とか、「1年で5人紹介するということを契約書に書け、話はそれからだ」とか思ってしまうわけだ。

「値引き交渉」とは

「値引き交渉」という言葉がよく使われる。「交渉」というのはWikipediaによると「合意に到達することを目指して討議すること」とのことだ。「値下げしろ」というのは「命令」であり、「安くしないと発注しないぞ」というのは「圧力」である。お互いの利害を突き合わせてうまいところの合意に落とし込むのが「交渉」である。